
ギークフジワラ Low-code Tech Lead & Evangelist 日本マイクロソフト株式会社


今後更なるデジタル化・生成AI活用に向け、Power Appsの大規模展開を加速
Astemo株式会社のDX人材育成におけるPower Platform の位置づけ
Astemo株式会社(以下同社)は世界的な自動車部品メーカーであり、主に自動運転・先進運転支援システム、パワートレインシステム、シャーシーシステム、二輪車用システム、を提供し、持続可能な社会の実現に貢献するため、技術革新を通じて環境負荷の低減と安全な移動手段の提供をめざしています。 同社は、デジタルトランスフォーメーション(DX)戦略として、社員主導の課題解決、生成AIを活用した業務プロセスの変革、社内データの利活用を進めています。その中で2029年までのDX人材育成ロードマップを策定し、持続可能なモビリティ社会を目指しています。
Power Apps Premiumの大規模展開
このDX人材育成の一環として、同社はPower Apps Premiumの大規模な展開を加速しています。これにより、社員は生成AIを搭載したアプリを自由に作成し、組織内で共有することが可能になります。これからは、このライセンスを持つ全社員がこれらのツールを活用して、その恩恵を享受できる時代が到来します。
生成AI x Power Platform 1 day ハッカソンの開催
このDX人材育成の第一歩として「生成AI x Power Platform 1 day ハッカソン」を開催しました。社員がチームで協力し、1日で生成AI搭載アプリを作成するイベントです。このハッカソンを通じて、社員が迅速に業務効率化を図るスキルを実践的に学び、問題解決に取り組むことで、社内のDX推進を加速させることを期待されています。
生成AI x Power Platform 1 day ハッカソンの開催概要
ハッカソンには、Power Platformを利用したことのない社員を含む4チーム15名が参加し、日本マイクロソフト品川本社に集まりました。このチームは、開催前にテーマを提出し、ビジネスインパクトの大きいテーマを中心に選定されました。
チーム名 | 2D図面リサイクラーズ | KING | Astemo Intelligence | 設計部門の教育推進 |
テーマ | 2D図面の再資源化 | 国際規格改訂の影響把握
| 帳票の整合性チェック | 教育コンテンツ選定のスマート化 |
改善 ポイント | ・極似部品の抑制と部品統廃合の促進 ・原価低減活動の加速と製品品質の向上 ・設計資産の再活用とナレッジ共有の促進
| ・国際規格との不整合リスクを大幅に低減 ・品質監査・顧客対応の迅速化と正確性向上 ・属人的な作業の標準化とナレッジ継承の促進
| ・品質文書管理の高度化と全社展開の可能性 ・将来的には社内文書全体の整合性チェック自動化へ発展
| ・教育の質と効率の向上 ・全社的な教育プラットフォームとしての展開を視野に
|
期待
効果
| 設計者1人あたり年間528時間の業務削減 | 現状年間約4,000時間 を 約2,000時間に削減 | 現状年間約500時間 を 約5時間に削減 | 現状年間約144時間(0.9h×2回×80人) を 削減 |
利用
製品
| Power Apps, Power Automate, AI Builder, Dataverse | Power Apps, AI Builder, Dataverse | Power Apps, Power Automate, AI Builder, Dataverse | Power Apps, AI Builder, Dataverse |
ハッカソン当日の午前中には、業務概要、ビジネスインパクト、業務フロー、アーキテクチャ整理の資料を作成し、発表しました。午後には約3時間で実際の開発と発表を行い、発表会には同社のCDO(Chief Digital Officer)とCTO(Chief Technology Officer)が参加し、審査と表彰を行いました。

相田 圭一氏、エグゼクティブヴァイスプレジデント Chief Technology Officer 兼 技術開発統括本部長
田村 浩一 氏、シニアヴァイスプレジデント CSO & CDO & CSuO 兼 経営戦略統括本部長
グランプリ賞
厳正な審査のもと、グランプリ賞には Astemo Intelligence のチームが開発した帳票の連鎖性チェック・生成システムが選ばれました。
グランプリ賞: Astemo Intelligence チーム
作成したアプリケーション
ハッカソンで作成された4つのアプリの概要は以下の通りです。
(1) Power Platform × 生成AIで2D図面を再資源化
「2D図面リサイクラーズ」チームがハッカソンで実現した業務変革の一歩チーム名 | 改善アイデアタイトル |
2D図面リサイクラーズ | AIを用いた2D図面の再活用 |
ビジネスインパクト賞:2Dリサイクラーズチーム
設計・開発の現場では、旧個社統合後の部品統廃合やVEC対応、コンプライアンス・環境対応などにより、膨大な2D図面の管理と再利用が大きな課題となっていました。
こうした背景のもと、「2D図面リサイクラーズ」チームは、Microsoft Power Platformと生成AIを活用し、図面資産の再活用を目的とした革新的なアプリケーションを開発しました。
課題解決に向けたアプローチ
本プロジェクトでは、以下の3つの技術的アプローチを組み合わせ、図面の利活用を高度化しました:
- AIと画像認識による図面の自動分類
- OCRによる注記・文字情報のデジタル化
- Power Appsによるキーワード検索と図面絞り込みのUI実装
従来、Pythonベースで類似画像比較ツールを構築・評価していたものの、教師なしの学習では精度が不十分でした。そこで、生成AIや機械学習を導入し、より高精度な図面解析を実現。さらに、Power AppsをUIに採用することで、現場ユーザーへのスムーズな展開と定着を図りました。
業務インパクトと将来展望このアプリケーションにより、部門を超えた部品検索や類似部品の選定が可能となり、原価・品質情報の把握も容易に。結果として、以下のような業務改善が期待されています:- 設計者1人あたり年間528時間の業務削減
- 極似部品の抑制と部品統廃合の促進
- 原価低減活動の加速と製品品質の向上
また、2D図面を構造化データとして扱えるようになることで、組織全体でのナレッジ共有と設計資産の再活用が進み、設計・開発の高度化に大きく貢献します。(2) 国際規格改訂の影響をAIで即時把握
「KING」チームが挑んだ、社内規格管理のスマート化チーム名 | 改善アイデアタイトル |
KING(チームメンバー苗字のから) | 国際規格と社内規格の影響点の自動抽出 |
デザイン賞:KING チーム国際規格(IATF、ISO、A-Spiceなど)の定期改訂は、製造業における品質・開発プロセスに大きな影響を与えます。これらの変更を社内規格に反映するには、膨大な文書の比較・確認作業が必要であり、時間と労力を要する業務の一つです。「KING」チームは、Microsoft Power PlatformとAI技術を活用し、国際規格と社内規格の差分を自動で抽出・可視化するアプリケーションを開発。これにより、従来手作業で行っていた影響分析を大幅に効率化しました。解決した課題と技術的アプローチ
従来は、国際規格の改訂があるたびに、以下のような作業が発生していました:
これらの作業には年間約4,000時間が費やされていましたが、本アプリの導入により約2,000時間の削減が見込まれています。主な機能は以下の通りです:- 国際規格文書の自動取込み
- AIによる社内規格との差分抽出
- 影響箇所の可視化と通知
Power Platformの柔軟なローコード環境により、現場部門でも迅速に運用を開始でき、50名のユーザーによる活用が想定されています。
定性的な効果と今後の展望この取り組みにより、国際規格との不整合リスクを大幅に低減。品質監査や顧客対応においても、より迅速かつ正確な対応が可能になります。また、規格改訂のたびに発生していた属人的な作業を標準化することで、ナレッジの継承と業務の持続性も確保されます。(3) 帳票の整合性確認を生成AIで自動化
「Astemo Intelligence」チームが挑んだ、品質文書管理の次世代化チーム名 | 改善アイデアタイトル |
Astemo Intelligence | 帳票の連鎖性チェック・生成システム |
製造業における品質マネジメントでは、IATF16949などの国際規格に準拠した帳票作成が求められます。特にSASGで規定される帳票群は相互に連鎖しており、その整合性を保つことが品質保証の要となります。しかし、帳票の作成者や作成時期が異なることで、抜け漏れや不整合が発生しやすく、確認作業には多大な時間がかかっていました。
この課題に対し、「Astemo Intelligence」チームは、Microsoft Power Platformと生成AIを活用し、帳票間の連鎖性チェックを自動化するシステムを開発しました。
技術的アプローチと主な機能
従来のルールベース手法では、文書間の表現や粒度の違いを吸収できず、自動化が困難でした。今回の取り組みでは、生成AIの自然言語理解能力を活かし、以下のような機能を実現しています:
- 複数帳票の連鎖性チェックと整合性の自動判定
- チェック結果の可視化と出力(連鎖性チェックシート)
- 部門ごとの表現差異を吸収するAI調整
- (将来的には)文書改善提案、判断プロセスの可視化、バージョン管理、翻訳対応なども視野に
Power Appsをフロントエンドに採用することで、ユーザーにとって直感的な操作性を確保し、現場へのスムーズな導入を実現しました。
業務インパクトと展望
このシステムにより、帳票整合性確認にかかっていた年間約500時間の作業が、わずか5時間にまで削減される見込みです。初期導入時点で200名、将来的には15,000名規模での利用が想定されており、全社的な品質文書管理の高度化に寄与します。
さらに、帳票にとどまらず、将来的にはあらゆる社内文書間の整合性チェックを自動化するプラットフォームとしての発展も期待されています。
(4) 教育コンテンツ選定をAIでスマート化
「設計部門教育推進」チームが実現した、全社教育の最適化と効率化チーム名 | 改善アイデアタイトル |
設計部門教育推進 | 全社共通教育から 所望のスキル分野とスキルレベルの教育コンテンツを自動で抽出 |
アイディア賞:設計部門の教育推進 チーム企業の人材育成において、社員一人ひとりに最適な教育コンテンツを選定することは、組織の成長とスキル強化に直結する重要な業務です。しかし、従来は教育担当者が膨大な教育リストから手作業で候補を抽出し、過去の受講アンケートを読み解いておすすめ度を判断する必要があり、大きな負担となっていました。
この課題に対し、「設計部門の教育推進」チームは、Microsoft Power Platformと生成AIを活用し、教育コンテンツの選定と評価を支援するアプリケーションを開発しました。
技術的アプローチと主な機能このアプリは、部門の教育担当者や部員が、全社共通教育の中から最適な教育コンテンツを効率的に選定できるよう支援するものです。主な機能は以下の通りです:- スキル分野・スキルレベルに応じた教育コンテンツの自動抽出
- 過去の受講アンケートをAIが要約し、おすすめ度をスター表示
- Power Appsによる直感的なユーザーインターフェース
構築にあたっては、過去の教育コンテンツとスキル分類のデータを機械学習によりモデル化。さらに、アンケートの自由記述を生成AIで要約し、教育効果の可視化を実現しました。
業務インパクトと展望このアプリの導入により、教育コンテンツ選定にかかる作業時間は、年間で約144時間(0.9時間 × 2回 × 80人)削減される見込みです。初期導入時点で80名、将来的には1,000名規模での利用が想定されています。また、設計部門にとどまらず、社員が汎用的に活用できるプラットフォームとしての展開も視野に入れており、全社的な教育の質と効率の向上に貢献することが期待されています。
さいごに
本イベントや Power Platform の利活用促進を率いるAstemo 福島氏は以下のように語ります。
今回のハッカソンは、マイクロソフト社の全面的なご支援のもと、Power Platformに搭載されている生成AI機能を活用し、革新的な業務効率向上のきっかけを見出すことを目的として企画いたしました。弊社内からは、すでにPower Platformを活用されている方から初心者の方まで幅広くご参加いただき、それぞれが業務改善の可能性を体感する貴重な機会となりました。 また、本イベントを契機として、業務上の課題や困りごとをPower Platformおよび生成AIを活用して改善できるという認識が社内に広まり、これまで以上にPower Platformの活用が加速しております。加えて、参加者同士の交流や知識の共有、新たな発見やスキル向上にもつながる有意義な場となりました。 このような貴重な機会をご提供いただきましたマイクロソフト社様には、心より感謝申し上げます。今後もグローバルを含めた活用推進に努めてまいりますので、引き続きご支援のほどよろしくお願い申し上げます。
福島 智治 Director
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今回のハッカソンは、生成AIとPower Platformの組み合わせがもたらす可能性を実感していただける貴重な機会となりました。参加の皆さま、これまでの業務とは異なる視点から問題解決に取り組むことで、新しい発見や学びに繋がったそうです。この経験を活かして、同社全体でのDX推進がさらに加速すことを期待しています。Microsoftは Astemo の組織全体のDX推進の支援を今後も継続していきます。